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大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)1656号 判決

原告 川端章夫

被告 日本出版販売株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し、昭和二十八年九月二十二日なした解雇の意思表示は無効であることを確認する。被告は原告に対し、右同日以降一ケ月金一万一千五円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として、

(一)  原告は被告会社大阪営業所に昭和二十五年十月二日雇入れられた従業員であつて、被告がなした左記の解雇にも拘らず、現に従業員たるの地位を有するものである。即ち、原告は昭和二十八年九月二十二日、被告会社より、何等具体的事由を示すことなく、被告会社就業規則第五十四条第一乃至第三号、第六号、第十号及び第十四号に該当するとの理由で、同日附を以て解雇の意思表示を受けた。しかしながら、右解雇は次のいずれの理由によつても無効である。

(イ)  原告は被告主張の如き就業規則に違反する行為をなした事実はないから無効である。

(ロ)  本件解雇は原告が正当な組合活動をなしたことを理由とするもので、不当労働行為であるから無効である。即ち原告が被告会社に入社した当時には日本出版販売株式会社労働組合(以下単に「日販労組」と略称する)は、大阪出張所(その後大阪営業所長に昇格)所長をも組合員としていたため、同出張所における組合活動は同出張所長兼組合員代表である小林基治によつて完全に抑えられ、組合員はその所属する日販労組の組合大会の開催すら知らされない状況であつた。しかして日販労組の組合員であつた原告は被告会社の組合活動に対する右の如き不法介入を排除すべく、昭和二十七年十月大阪出張所の組合員代表として、単身日販労組の組合大会に出席し、営業所長等課長級以上の非組合員化の提案を行つて、これを可決せしめ、同年十一月十一日には日販労組大阪支部(以下単に支部組合と略称する)を結成し、爾来右支部組合執行委員兼宣伝部長として、常に支部組合の中心となつて正当な組合活動に従事して来たものであるが、被告は昭和二十八年七月十九日原告の組合活動を封殺する目的を以て、原告に対し被告会社京都出張所への転勤命令を発するに至つた。そこで同年八月四日支部組合は組合大会を開いて、原告に対する右転勤命令は不当労働行為であることを確認すると共に、右転勤命令の撤回、及び大阪営業所の新社屋移転手当として、金五千円の支給を要求闘争することを議決し、争議に入つたが、その後も原告は右支部組合の闘争委員として終始熱心に正当な組合活動に従事して来たものである。しかるに被告は原告のかかる行為を解雇事由として本件解雇に及んだものでその無効たること明瞭である。

(二)  原告は右の通り被告会社の従業員たる地位を保有するに拘らず、被告は原告の就業を拒否し、その賃金を支払わないから、本件解雇の意思表示の無効であることの確認を求めると共に、被告に対し、昭和二十八年九月二十二日以降本件解雇通告当時の平均賃金一ケ月金一万一千五円の割合による金員の支払を求めるため、本訴に及んだと述べ、

(三)  被告の主張に対し、

(1)  解雇事由(は)のうち、

(1)及び(2)の事実は否認する。

(3)のうち、原告が被告主張の組合大会において演説を行つたことは認めるが、その内容は、労働条件の改善と、労働者の地位の向上に関する事項で、殊更に被告会社々長を誹謗したものではない。

(4)の(イ)の事実は争う。

(4)の(ロ)のうち、被告が原告に対する転勤命令を口頭で撤回したことは認めるが、その余の事実はすべて争う。被告は転勤命令を撤回しながら、労働慣行を無視し、文書による回答を執拗に拒否し、更に移転手当の要求に対しては全然これに応じなかつたため、支部組合は被告の不誠意に対し、争議を以て対抗したもので、争議の適法なること明瞭である。

(5)のうち大阪支部組合が争議適格を有しないとの点は争う。

組合は昭和二十七年十月支部組合規約を制定し、日販労組の支部として、独自の団体交渉権、争議権を取得したものである。

(6)の(イ)事実は否認する。仮に一部に被告主張の如き事実があつたとしても、かかる事実は原告の何等関知しないところである。

(6)の(ロ)(ハ)の事実は争う。

(6)の(ヘ)乃至(リ)及び(7)の事実は争う。

原告は八月十九日以降、取次労組親和会に本件争議の事情報告のために上京し、同月二十七日帰阪したものであるから、その間の支部組合の状況については関知しない。従つて、右期間中の被告主張の事実はその有無を問わず、原告に対する解雇事由とはなりえない。

(8)の事実も争う。

(2) (三)の事実のうち、原告が被告から解雇予告手当を受け取り、所轄職業安定所より失業保険金を受領したことは認めるが、その余の事実は争う。原告は被告より不当なる解雇通知を受け、且つ厳に就業を拒否されたため、他に収入なく、生活費に窮した挙句、将来賃金の一部に充当するつもりで、止むなく右金員を受領するに至つたもので、原告は被告の解雇・通告を承認したものではない、と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

(一)  原告主張の事実中、原告がその主張の日に被告会社大阪営業所に雇入れられた従業員であつたことは認めるが、原告主張の通りの理由による解雇の意思表示により、有効に解雇されたから、もはや従業員たるの地位を有しない。

(二)  右解雇の無効原因として原告の主張する事実は争う。解雇は左の事由により有効である。

(い)  本件解雇は、原告が左記の如き就業規則違反行為を行つたことを理由とするものであるが、右の原告の行為は、本質上被告会社の企業の秩序を乱し、企業目的の遂行を害するものであるから、就業規則の規定の有無、内容の如何に拘らず、かかる行為を理由とする解雇は有効である。

(ろ)  本件解雇は原告が正当な組合活動をしたことを理由とするものでなく、却つて、原告が不法な争議行為を指導、強行、継続し、違法な組合活動をしたことを理由とするもので、即ち左記の就業規則違反の所為を理由とするものである。この点に関する原告主張事実中、原告が大阪支部組合(但し、それが日販労組の規約により正式にその存在を認められたものであることは争う)の執行委員兼宣伝部長であつたこと、原告に対し京都出張所への転勤命令を発したこと同支部組合が右転勤命令反対、新社屋移転手当の要求闘争を決議し、争議に入つたこと及び原告が右争議の闘争委員であつた(しかも闘争副委員長であつた)こと、被告会社大阪営業所の課長以上が非組合員化されたこと(但し他の営業所等についても一様に改められたものである)は認めるがその余の事実はすべて否認する。

(は)  原告は被告会社の従業員として、左の如き行為をした。

(1)  原告は被告会社大阪営業所に勤務しながら、密かに被告会社に関する諸般の事実を暴露的、誹謗的に記事として掲載することを常とする新聞「街道」の編集にたずさわつていた。

(2)  原告は昭和二十八年七月十一日被告会社営業所の新築落成にあたり、被告会社がその得意先、市内有力者等約三百名を招き、落成式を挙行した際、同営業所の従業員多数をリードして、式場の隣室において、労働歌「インターナショナル」を高唱し、右来賓顧客に対し、被告会社についての異常な不安と憂慮の念を印象ずけた。

(3)  原告は同年八月十日被告会社大阪営業所の中庭において開催された支部組合大会(組合員三十一名の外、被告会社の取引先数名出席)において、「被告会社相田社長は財閥の手先となり、労働者の搾取を図り、民主的出版物の販売を抑制している」等と被告会社々長を誹謗するアジ演説を行つた。

(4)  争議開始についての違法性

(イ) 被告会社は昭和二八年四月頃、同会社大阪営業所長小林基治より、原告は上長及び同僚との折合が悪く、業務の運営に支障を来すので、原告が被告会社に入社するに際し、原告を推薦した被告会社京都出張所長八木賢治のもとで、指導訓練を受けさせるべく、京都出張所に転勤せしめられたいとの内申を受けたので、被告会社においては右内申の趣旨を諒とし、小林所長に対し、原告本人の諒解を求むべく回答していたところ、その後、小林所長より原告の諒承を得た旨の通知に接したので、被告は同年八月四日原告に対し、京都出張所への転勤命令を発したものである。ところが原告は、右転勤命令が被告会社の業務上必要とせられたものであるのみならず、勤務上も、また地域的にも原告に何等不利益をもたらすものでないにも拘らず、右転勤命令を強硬に拒否し、該転勤反対を以て支部組合の被告会社に対する闘争に持込まんとしたが、これのみを以てしては他の従業員の同調を得ることは困難と考え、当時偶々大阪営業所の所社屋移転直後であつたので、他の従業員にも利害共通なる右新社屋への移転手当をも闘争獲得せんとを企て、移転手当として著しく妥当を欠く、一人当り金五千円の要求をも闘争目的に併せ掲げ、同日支部組合大会を開いて原告の転勤絶対反対及び移転手当従業員一人当り金五千円獲得の二項目を被告会社に要求闘争すること、並びに原告を含む六名を闘争委員とすることを議決せしめた。以上の通り、右争議は、不純の目的から、不当な金員の要求を争議目的とした点に違法性がある。

(ロ) しかして原告を副闘争委員長とする右闘争委員会は、同月八日夕刻被告会社本店到達の書面を以て、被告に対し、前記二項目の受諾を求め、右要求に応じない場合には同月十一日午前零時を期してストライキに入る旨通告し来つたが、翌九日は日曜日であつたので、翌十日被告はこれにつき種々協議した結果、前記転勤命令は被告会社の業務運営上当然の措置であり、些も不当不法のものではないが、被告会社幹部の前記配慮が小林所長を介したため、原告に徹底していなかつたのではないかとの疑念があつたので、後日紛争の生ずることを虞れ、転勤命令はこれを撤回することとし、同日夜被告は右闘争委員会に対し、「原告に対する転勤命令は撤回する。しかし移転手当の件は現在被告会社本店の社屋新築に着手しており、また近く名古屋営業所の移転も計画中である関係上、移転手当の支給の有無及びその金額如何は、被告会社従業員全体の問題であるから、独り大阪営業所についてのみ、これを早急且つ独立別個に決定することは、適当でないのみならず、日販労組本部(以下組合本部と略称する)を除外して大阪支部のみを相手に交渉することは組合規約の上からも疑義があるから、この際移転手当については、組合規約に則り組合本部と被告会社との団体交渉によつて円満な解決を図りたい」旨回答した。しかるに原告を含む闘争委員等は、叙上誠意あり且つ事理を尽した回答を無視し、実質上二十四時間にも満たない短時間内に諾否の回答を強要し、被告が既に撤回した前記転勤命令に対する反対をも争議目的とし、しかも右二項目の要求につき何等団体交渉に出ずることなく、同月十一日午前零時を期して争議に入つた。即ち、右争議は、有効に撤回された転勤命令を対象とする点において、争議目的を持たない争議であり、かつ、団体交渉を経ず、信義則に反し即答を強要して一方的に開始した点に違法性があり、争議権の行使としても、その濫用に過ぎない。

(5)  争議適格及び争議手続の違法性

支部組合の組合規約は組合本部において承認されたものではなく、また日販労組規約第四十六条第四十七条によれば、日販労組がその支部に独立別個の争議権を認めていないことは明白であるから、組合本部においては、被告の前記措置及び方針を諒とし、原告を含む闘争委員等に対し、被告の方針通り、組合本部との団体交渉によつて解決に努めるよう説得勧告したけれども、右闘争委員等は組合本部の指令を無視して争議に入つた。しかして組合本部はスト不拡大方針に基き、執行委員長以下を現地に送り、事態の収拾に努力したが、原告等は頑としてこれに応じないので、組合本部は八月十三日「本部指令を無視し、外部団体と結んで政治的色彩が強く、且つ企業破壊を目的として一般組合員の幸福を無視するストには断乎反対する」旨の声明を発し、更に同月二十二日日販労組大会を開いて、「組合本部は大阪支部の支部規約を認めない。団体交渉権はあくまで組合本部にあることを確認する」旨、並びに「組合大阪支部は本通告より二十四時間以内にスト態勢を解くべし。右期限内にスト態勢を解かない場合はスト参加中の大阪支部組合員を日販労組組合員より除名する」旨を決議し、その旨支部に通告した。しかるに原告等闘争委員は右勧告決議に従わなかつたので、組合本部は翌二十三日組合大会を開いて、原告を含むスト参加者七名を日販労組組合員より除名する旨決議し、直ちにその旨原告等に通告したから、原告は同日限り組合員たる地位を喪失するに至つたものである。叙上の如く本件争議は、争議適格のない支部組合員が日販労組の全体的意思(組合本部の指令及び組合大会の決議)に基かないでした統制違反の山猫争議に外ならないから違法である。

(6)  争議方法及び争議中の行為の違法性

(イ) 原告等争議団は本件争議開始と同時に大阪営業所を不法占拠し、要所要所に会社所有の器物をもつてバリケードを設置し、或は新築社屋に五寸釘を打つて、数多の障碍物を構築し、その中に立てこもつて、大阪営業所の営業を不能ならしめたのは勿論、全員手鍵、金鎚等兇器を携えて、争議不参加の従業員及び取引先顧客の立人を拒否して、右営業所への出入を不可能ならしめ、また会社所有の手拭数十本、自動三輪車二台、ガソリン、電話等をほしいままに争議用に使用した。

(ロ) 原告等闘争委員は、かねて連絡せる最も過激なる外部団体の一味数十名を争議団に導入して、大阪営業所内に立てこもらしめ、違法な争議を強化した。

(ハ) 原告等闘争委員は、職務上知り得た被告会社の売上金額及び前記移転祝賀のために費消した金額並びにその使途をビラに記載して、百貨店その他の取引先等にこれを配布し、被告会社の機密を漏洩暴露した。

(ニ) 原告等争議団は、大阪営業所の外部より見える場所に、不穏なる数々の文書を貼付した。

(ホ) 被告会社は、原告等争議団の大阪営業所の不法占拠により、同営業所における営業が不能となつたので、八月十四日大阪市西区新町所在の新町荘に仮事務所を設け、且つ附近の倉庫の一部を借入れ、被告会社東京本店、名古屋営業所、京都出張所等より臨時に従業員を派遣して、営業を継続することとなつたが、原告等争議団は右仮営業所の従業員を脅迫し、更にまた右派遣された従業員が宿泊していた旅館の経営者に対し、同旅館に危害を加うる旨申し向けて、同人を畏怖せしめ、因つて右従業員等をして、右旅館より退去するのやむなきに至らしめた。

(ヘ) 原告等争議団は同月十七日前記仮営業所に赴き、同営業所の従業員に対して、アジ演説をなし、また同日及び翌十八日の二回に亘り、同仮営業所に坐り込みをなしてその業務を妨害した。

(ト) 原告等争議団は同月二十日被告会社が大阪駅において、取引先北竜書店に引渡した婦人雑誌包四十三個を、ほしいままに大阪営業所に搬入して奪取し、更に同日被告会社従業員が婦人雑誌包二百八十三個を大阪駅より仮営業所に宛搬出しようとした際、これを妨害して、その三分の一を駅構内より搬出不能ならしめた。

(チ) 原告等争議団は同月二十一日被告会社が仮営業所用に他より借受けていた倉庫の扉を暴力をもつて破壊した。

(リ) 本件争議中原告等争議団の内部においてリンチ事件が発生し、これが大阪警視庁に探知され、同月二十三日午前零時同庁機動隊百五十名が大阪営業所を急襲するや、争議団は暴力を以て、これに対抗し、双方に多数の負傷者を出すに至り、主謀者等二十八名は公務執行妨害、傷害等の嫌疑により悉く逮捕せられ、本件争議は事実上終熄したが、原告は偶々当日不在で、其の後行方をくらましていたので逮捕を免れた。しかして逮捕されたものは起訴され、審理の結果それぞれ有罪の判決を受けた。

(7)  原告等争議団は右の如き破壊的な争議行為により、被告会社の信用を失堕し、取引先顧客を喪失せしめ、業務運営を阻害する等被告会社に有形無形の莫大なる損害を被らしめた。

(8)  無断長期欠勤。

原告は本件争議開始日より本件解雇通常通告までの長期間無断欠勤した。

(に)  以上の原告又は争議団の行為中、(4)の(イ)は就業規則第五十四条第二号後段「正当な理由なくして上長の指示に従わないもの」(6)の(イ)(チ)及び(7)は各同規則第九号後段「監督不行届のため、会社に損害を与えたるもの」又は同規則第十一号「会社の許可なくして会社の構内又は物品を業務以外の目的を以て使用したもの」、(6)の(ハ)は、同規則第三号「会社業務上の機密を他へ洩したもの」、(6)の(ニ)は同規則第十号後段「会社内で会社の許可なくして、不穏な印刷物を配布若しくは貼布したもの」、(8)は同規則第五号「無断欠勤連続七日以上に及んだもの、又は勤務状態甚だしく劣悪なもの」(6)の(リ)は同規則第一号「従業員としての体面を汚し、又は信用を落す行為をなしたもの」、第二号「会社の秩序安寧をみだし、又は正当な理由なくして上長の指示に従わないもの」及び第十四号「就業規則第五十四条第一乃至第十三号に準じた行為をなし、本就業規則、その他会社の定める諸規程又は命令に違反したもの」、その余の各行為即ち(1)(2)(3)、(4)の(ロ)、(5)、(6)の(ロ)(ホ)(ヘ)(ト)はいずれも同規則第一号(前掲)第二号(前掲)及び第九号「監督不行届のため、会社の秩序安寧をみだし、又は会社に損害を与えたもの」の懲戒処分事由に各該当し、且つ叙上の各違反行為はいずれも極めて重大なもので、しかも叙上行為のうち争議団の行為にして、原告自ら直接これをなさざりしもの、又は争議現場に不在中に行われたものについても、原告は副闘争委員長として、基本たる争議を企画、指導、指揮したことより生じたものであるから、その結果につき、すべてその責を免れることはできない。

よつて被告は、原告の以上の行為を理由として、就業規則第五十五条により原告を解雇したもので、右は当然の処置であつて、もとより解雇権の濫用とはならず、解雇は有効である。

(三)  仮に然らずとしても、原告は既に本件解雇を承認したから、本訴は理由がない。即ち原告は本件解雇の通告前より、被告会社を無断長期欠勤して、他に就職していたが、前記解雇の通告後である同年九月末頃、被告会社に対し、自ら解雇予告手当の支払を請求して来たので、被告は労働基準法所定の三十日分の平均賃金を原告に支払い、更に原告の求めにより、原告が被告会社より同年九月二十二日解雇せられて離職したことを証明する失業保険、被保険者離職票を原告に交付し、原告はこれに基き所定の失業保険金全額を所轄職業安定所より受領したものであるから、原告は本件解雇を承認したものといわねばならない。

(四)  仮に然らずとするも、原告は本件解雇通告後前項記載の如き行為をなし来つただけでなく、右通告後三年を経た今日に至り、突如として、本件解雇の無効を主張し、且つ労務と対価関係にあるべき給与につき、労務を提供することなく、一方的に被告に対し賃金の支払を請求することは、信義誠実の原則に反し、権利の濫用であつて許さるべきではない。

(五)  原告主張の賃金額は争う。原告解雇当時の固定給は一ケ月金六千七百二十六円であつた、と述べた。

(立証省略)

理由

一、原告が昭和二五年十月二日被告会社に雇入れられた従業員であつたことは当事者間に争がない。

二、次に、被告が昭和二十八年九月二十二日原告に対し、被告会社就業規則第五十四条第一、二、三、六、十、十四号違反の理由を以てする解雇の意思表示をなしたことは原告の自認するところであるから、右解雇の効力について判断する。

三、先ず被告会社就業規則第五十四条、第五十五条に、被告主張の如き解雇を含む処分(懲戒処分)基準の定めがあることは成立に争のない乙第四十六号証によつて明らかである。

四、次に成立に争のない甲第一号証、同第三乃至第五号証、乙第五乃至第八号証、同第九号証(後記措信しない部分を除く)、同第十、第十一号証、同第十八乃至第二十号証、同第三十七乃至第四十号証、同第四十七、第四十八(後記措信しない部分を除く)、第四十九号、第五十(後記措信しない部分を除く)号証同第五十一乃至第五十三号証、同第五十四号証(後記措信しない部分を除く)、同第五十五乃至第五十七号証、同第五十八号証(後記措信しない部分を除く)、同第五十九乃至第六十三号証、同第六十八号証(後記措信しない部分を除く)、同第七十一乃至第七十三号証、同第七十四号証の一乃至六、同第七十五号証の一乃至二十七、同第七十六号証の一乃至三十、同第七十七号証、証人宮原晒の証言により成立を認めうる乙第二十三号証、同第二十七号証、及び同第二十八乃至第三十号証、証人辻直雄の証言により成立を認めうる乙第十二乃至第十七号証、同第三十二乃至第三十六号証、証人森田昭勝、同古林利一、同天野則義、同宮原晒(以上四名いずれも後記措信しない部分を除く)、同山崎賀夫、同滝口徹、同土井和一、同北河信一、同森春二、同大林道生、同有井正、同八木林之助、同辻直雄、同藤田正勝、同洞とし子、同天野久夫、同八木賢治の各証言及び原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、次の事実が認められる。

(一)  被告が原告に対する転勤命令を発するに至つた経緯。

原告は被告会社京都出張所長であつた八木賢治の推薦により被告会社大阪出張所(昭和二十八年七月十一日新社屋へ移転と同時に大阪営業所に昇格)に入社し、商品係として書藉の荷造、発送、返品の整理等の業務に従事していたものであるが、原告入社当時における右出張所における組合活動は、大阪出張所長小林基治自ら日販労組組合員であり、又被告会社の課長等も同組合員であつた関係上、甚だ低調であり、同出張所の他の組合員はその所属する日販労組大会の開催すら知られない状況であり、しかも労働状況は残業時間の増加により相当過重であつたので、原告は昭和二十七年十月二十日東京都の被告会社本店において開催された日販労組組合大会に大阪出張所組合員代表として、単身出席し、右出張所長等会社側利益代表者の非組合員化を提案して、これを可決せしめ(この点は当事者間に争がない)、更に大阪出張所においても大阪支部組合結成の必要を提唱し、天津則義、古林利一、森田昭勝等と共に従業員多数の賛同を得て、同月中直ちに大阪支部組合(支部長天津則義、後に八木林之助)を結成し、支部組合規約を作成して、組合本部の承認を得、自ら組合大阪支部の執行委員兼情報宣伝部長として(この点のみは当事者間に争がない)昭和二十八年四月の組合本部における大会には、赤旗を掲げて出席して活溌な発言をなし、これらの積極的な組合活動により、一躍会社側より注目されるに至つた、その間にも、原告は、昼食時間の確保、残業及び深夜業手当の完全履行を要求する等従業員の待遇改善のため、常に組合の中心となつて、組合活動を行つて来た。しかるに大阪出張所は業務拡張の割に従業員の増員がなされなかつたため残業の必要が益々増大し、特に昭和二十八年六月頃からは、新社屋の移転準備のため、従業員の残業時間は一月当り百時間以上にも及ぶ始末であつたが、原告はかねて民主主義科学者協会の研究会に入会していた関係上、同研究会に出席のため、往々残業を拒否することがあつたことから、原告の上長である訴外山崎賀夫との折合が悪くなり、また宿直の日に無断外出したこと等もあつて、出張所長小林基治は被告会社東京本店に対し、これらの事実を理由に、原告が大阪出張所にいることは同出張所の業務の運営に支障を来すものとして、さきに原告を推薦した前記八木賢治のもとで、指導訓練を受けさせるべく、京都出張所に転勤せしめられたい旨内申していたところ、同年七月十一日新社屋の落成にあたり、被告会社がその得意先その他市内有力者約三百名を招き、落成式を挙行した際、原告が組合員をリードして式場の隣の宿直室で労働歌「インターナショナル」を高唱したことが会社側を強く刺戟し、かねて原告の活溌な組合活動に対し、快からず思つていた被告会社は、原告をその活動の場たる大阪営業所より排除する目的を以て、同月十九日頃原告に対し、業務の都合を理由として、京都出張所へ転勤せしめることを内定し、同月二十日原告にこれを内示し、その反対にも拘らず、同月三十日正式にこれを発令するに至つた。

(二)  転勤命令発令より争議に入るまでの経過。

原告は、右転勤命令は、原告の正当な組合活動を封殺する目的を以てなされたものであるとして強硬にこれを拒否し、また支部組合においても、執行委員会を開いて、原告の転勤反対を決議し、大阪営業所長小林基治に対し、転勤命令の撤回方を要求したが、同所長より峻拒されたので、ここに実力闘争による要求貫徹以外に途はないと考えるに至つた。そして当時は偶々大阪営業所の社屋移転直後で支部組合の内部において、被告会社が社屋移転に際し、接待費として、デパート内見会に金六万円以上、落成式に金十万円、また市会に金十万円も支出しながら、前記の如く移転のために労働強化を余儀なくさせられた従業員に対しては、僅かに一人当り金二百円の祝金しか支給しなかつたことに対し、種々不満の声が述べられていたので、右の社屋移転手当の要求をも闘争目的に加えることとし、右接待費に費消した金額と当時の従業員数(四十名)とを対比検討した結果、その要求額を一人当り金五千円と定め、他面右要求項目の外に、前記金額や、その使途等業務上の機密に関する事項をも記載したビラを百貨店その他の取引先等に配布する等、漸次宣伝活動を活溌化し、同年八月四日支部組合大会を開いて、被告会社に対し、前記転勤命令の撤回及び社屋移転手当一人当り金五千円の支給を要求して闘争態勢に入ること、要求貫徹のためにストライキ実施の決定権限を組合役員に移譲することを絶対多数を以て議決し、(右二項目議決の事実も当事者間に争ない)同時に八名よりなる闘争委員会を組織し、森田昭勝を闘争委員長に、原告を副闘争委員長に、古林利一等六名を闘争委員にそれぞれ選任した。(但し、これらの措置に対し反対した組合支部長八木林之助は自ら組合を脱退した)その頃、原告及び右森田昭勝は、大阪出版株式会社の代表者長坂本一より、組合に対する専任指導者として、日本共産党北大阪地区委員と言われる相川こと酒井猛を紹介され、その指導を受けるようになり、闘争委員会は同月八日到達の書面を以て、被告会社に対し、「八月十日午後十二時迄に組合の承認を得るような回答を得ない時は、翌十一日午前零時を期してストライキに入る」旨を通告し、翌九日大阪営業所において小林営業所長等と団体交渉を試みたが、組合側の要求が全面的に拒否されたので、被告会社本店において会社側と交渉するため、直ちに闘争委員古林利一を上京せしめ、翌十日被告会社本店において支部組合より右古林闘争委員、組員本部より宮原執行委員長、川浦副委員長、甕書記長等が出席して、会社側と団体交渉を開いた結果、会社側は席上相田社長より原告の転勤命令を撤回する旨を言明し(この転勤命令撤回言明の点は争ない事実に属する)、なお移転手当の問題は、現在被告会社本店においても社屋の新築に着手しており、また近く名古屋営業所の移転も計画している関係上、ひとり大阪営業所の従業員にとどまらず、被告会社従業員全体の問題であるから、後日会社側と組合本部との団体交渉によつて解決する旨回答したが、支部組合はこれに満足せず、会社はなお非公式に、被告会社各課長が拠金して、大阪支部組合員一人当り金千円宛を支給するからストは見合わせられたいとの申入れをなしたところ、組合本部においてこれを諒承したので、被告会社は組合本部と共に直ちに右結果を大阪支部の闘争委員会宛電話連絡し、スト回避を要求したが、同委員会は出所趣旨不明の金は受取れず、転勤命令の撤回は後日の紛争を避けるため、文書にてなすべきこと、移転手当は即時全額支給さるべきことを主張して譲らず、右二項目の要求を争議目的として、翌十一日午前零時を期してストライキに入つた。(この事実も当事者間に争ない)

(三)  罷業開始後における争議団の行動

支部組合は闘争委員会の決議に基き、スト開始と同時に、これに参加した組合員二十二、三名により営業所を完全に占拠し、事務用の机を、表門入口に積重ねて防壁とし、応援団体等と共にその中に立てこもり、これら物的障害物と共に、表門附近にピケツトを張り、スト不参加の従業員及び取引先顧客の立入を拒否して、その営業を不能ならしめ、被告会社所有の手拭約四十本、自動三輪車二台、及び電話等を争議用に使用する等の措置に出た。会社側はその対抗策として、森田闘争委員長に対し営業所閉鎖の通告をなすと共に、同月十三日頃被告会社本店、名古屋営業所及び京都出張所等に勤務する従業員約二十名を大阪に集め、右従業員等をして争議参加組合員のピケツト線を突破せしめて営業所の建物を奪還せんとしたが、組合側が通用門、表玄関、硝子戸等に内部より障碍物を構築し、更に棒でついたり、消火用ホースで放水する等の防衛手段に出たので、遂にその目的を達することができなかつた。

そこで会社側は暫定措置として、大阪市西区新町南通所在の数学研究社の倉庫を借受けて、仮営業所を設け、翌十四日頃より前記特派された従業員及び争議不参加の従業員によつて、営業を継続することとなつたが、原告等闘争委員は右のような会社側の強硬策に対応するため、外部団体の応援を求め、その勢力の増強を図つた上、これ等応援者を含む争議団は、同月十七日頃前記仮営業所に赴き、同所の従業員に対しアジ演説をなし、また書籍の配達に出かけようとする自動三輪車の前路上に寝転んで、その運行を妨害したりして、闘争を続けていたが、同月十九日戦術会議を開いて闘争方針を協議した結果、翌二十日争議団員十数名は日本通運株式会社大阪駅支店五号門に赴き、同所において、北竜書店が被告会社より大阪駅にて引渡を受けた婦人雑誌包約四十三梱を、同書店の依頼を受けて、大阪駅より右書店に運搬せんとする右大阪駅支店の小型三輪トラツク一台を発見するや、右争議団員等はこれを被告会社が仮営業所に運搬するものと誤信し、その運転手をして、右雑誌を無理に大阪営業所に搬入せしめ、更に同日争議団員約十名は被告会社従業員が大阪駅において、被告会社の書籍二百十梱を自動三輪車三台に分載して、仮営業所宛に運搬せんとした際、車の前方に立塞つて、その進行を妨害し、そのうち一台の運行停止を余儀なくせしめた。また翌二十一日争議団員約十名は被告会社が仮営業所用に数学研究社より借受使用中の倉庫の扉を金属製様のもので叩いて損壊し、更に引続き、右争議団員等は当時被告会社総務部次長土井和一等幹部が止宿していた旅館新町荘に押しかけて、同人等に面会を強要し、同旅館の電話の使用を禁じた同旅館経営者藤田正勝に対し、「何をぬかすか、家を燃してしまうぞ」と申し向けて、同人を畏怖せしめ、因つて右幹部等をしてその旅館より退去せざるのやむなきに至らしめた。

他方支部組合においては、組合本部が大阪支部の争議を統制違反であるとして、これに反対の態度をとり、遂には争議反対の声明書を出し、組合本部より右声明書を争議参加組合員宛送付し、また被告会社従業員が右組合員の住所を戸別訪問して争議の中止を勧告する等の措置に出たため、次第に争議より脱落する者が多くなり、同月二十日頃には残留者は十名に満たない有様となり、争議の遂行は専ら外部よりの応援者十数名と組合の小数幹部によつて構成される会議によつて行われるようになり、争議の主導権は外部応援者の手に移つた。かような状勢下にあつて、同月二十二日組合本部は組合大会において「組合本部は大阪支部の支部規約を認めない、従つて団体交渉権は飽く迄も本部にあることを確認する。」旨、並びに「組合大阪支部は本通告より二十四時間以内にスト態勢を解くべし、若し右勧告に従わない場合は、スト参加中の大阪支部組合員を日販労組組合員より除名する」旨決議し、即日右決議文を速達内容証明郵便にて組合大阪支部宛発送した。ところがこれより先、同月二十一日応援者の一人である訴外青井弘行に対するリンチ事件が争議団の内部において発生し、これが大阪警視庁に探知され、同月二十三日午前零時十分頃同庁捜査第三課警察職員百十数名が大阪営業所に来り、闘争委員長森田昭勝等に対する監禁、傷害被疑事件の捜索差押許可状を示して、右営業所内部の捜査を実施せんとするや、同営業所を占拠していた争議団は警察官等に対し、罵言を浴せて、入門並びに捜査の実施を拒否して、反抗の態勢を示し、警察官が実力により門扉を引き開けようとするや、これに対し、防壁を補強し、門扉の間から棒でつつき、二階から椅子を投下し、消火用ホースで放水する等の暴行をなし、また警察官の入門に際しては、全館一齊に消燈し、引続き消火用ホースで放水し、棒等で殴りかかり、椅子、棒、バツト、下駄、ビール瓶、石塊、金槌、書籍等を投げつける等の暴行を加え、双方に多数の負傷者を出すに至り、闘争委員長森田昭勝等本件争議の指導者等は公務執行妨害、傷害、不法監禁等の嫌疑により、悉く逮捕せられた(但し、原告は同月十九日より取次労組親和会に出席のため上京していて不在であり、その後本件解雇の通告を受けるまで大阪営業所に出勤せず、その所在が判明しなかつたので逮捕を免れた)ため、本件争議は事実上終熄し、右逮捕された指導者等は起訴され、審理の結果、いずれも有罪の判決を受けた。そして被告会社は本件争議により相当の信用を失堕し、取引先顧客を喪失し、また業務運営を妨害される等有形、無形の相当額の損害を被つたことが容易に推測される。

以上の如く認められ、成立に争のない乙第九、第四十八、第五十、第五十四、第五十八、第六十八号証、証人森田昭勝、同古林利一、同天津則義、同宮原晒の各証言、及び原告本人尋問の結果中、右認定に牴触する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

原告は、本件解雇の理由を、以上認定事実のうち、原告が正当行為としてなした日販労組の大阪支部組合の結成運動、転勤命令の拒否、及びこれと新社屋移転手当要求を争議目的とする争議行為の開始、遂行に在るものと主張し、被告は同じく右残勤命令拒否に始まる争議行為の開始、遂行を違法行為として解雇の理由としたものと抗争するので、按ずるに、右転勤命令の発令に至るまでの原告の所為の中、被告の違法視する(1)新聞編集の事実は証人天津則義の証言に徴するも、その具体的内容の立証なく、(3)の誹謗演説の事実も、証人辻直雄の証言によると、組合集会における被告会社の営業政策の批判の域を出でず、対外的に不当な中傷、誹謗をしたことの立証がなく、又(2)の落成式における労働歌高唱の事実は、さきに認定した通りであるが、右は、組合活動として、その時宜の当否の問題はあるとしても、これが格別の秩序紊乱行為として解雇理由に採り上げるに足りないものであることはいうまでもない。

そこで転勤命令の拒否及びこれにつづく反対闘争が、正当行為であるか否かについて見るに、右転勤命令が、被告会社大阪営業所における原告の主唱する組合活動の活溌化を被告会社が嫌忌したことを主たる理由として発せられたことは、前認定事実から容易に察知することができ、従つて、不当労働行為としての不利益取扱の疑が濃厚と見られる限り、これを一応拒否し、反対闘争を展開することは、その段階においては何等責めらるべき行為でなく、また、新社屋移転手当の支給を従業員が真に欲していた以上、この要求をも併せて闘争の目的に加えることも、それ自体特に不法視せらるべき筋合はない、次に闘争手段として争議行為に訴えたことについても、一応その前に団体交渉を試み、しかも組合の要求が完全にかつ明確に承認されなかつた以上は、争議手段の施用そのものに何等の違法なく、開始手続にも格別の制限がないから固より争議権乃至争議行為の濫用を以て目すべき限りではない。又、支部組合として独立の存在を認め得るから、争議を為す適格を欠くものでもなく、又独自に争議開始を決定しても、組合本部との関係において内部統制の問題を生ずることはあつても、争議行為自体を違法ならしめるものではない。しかもこれらの行為は、支部組合の圧倒的多数の賛成により採択、実施された行為であるから、独り原告のみに格別の責を問い得べき筋合でもない。

次に、本件において行われた争議行為の態様、即ち争議の方法の当否につき検討する。

前記認定の事実によれば、大阪支部組合は闘争委員会の決議によりストライキに入ると同時に会社側の意向に反して、大阪営業所の建物を争議団員のみで完全に占拠し、その後十三日間に亘り、その営業活動を指揮、監督すべき会社従業員を含む他の従業員の出入を阻止し、また取引先、顧客の出入をも禁止して、右営業所における被告会社の業務を完全に不能に帰せしめたことが明らかである。かかる行為は、労働者が企業設備に対する使用者の支配を完全に排除し、これを排他的に占有し、しかも何等の業務活動をも為さないものであるから、単なる坐り込みストライキの域を越え、使用者の企業設備の支配権を不必要に侵害するものであつて、争議行為の手段、方法において違法たるを免れず、しかも右の違法は争議行為の基本形態に関するものであるから、争議全体を違法ならしめるものというべく、右行為は少くとも被告が解雇の事由として挙げた前掲被告会社就業規則第五十四条第二号「会社の秩序安寧をみだし、又は正当の理由なくして上長の指示に従わないもの」及び第十一号の「会社の許可なくして会社の構内を業務以外の目的を以て使用したもの」に準ずる同条第十四号の行為に該当すること明瞭であるから、形式上から見ても就業規則違反を生ずるものといわねばならない。(被告主張の同条第九号、第十一号自体の違反は、解雇事由として明示されたものではないからしばらく措く。)そして右の争議行為については、本件争議の副闘争委員長として、右手段方法の採用の決議に参画し、しかもそれを自ら遂行した原告が、その責を負うべきことは当然である。

そうすると、原告の行為は、組合結成より前記転勤命令の拒否と反対闘争の実施までは、何等違法視すべきものはなく、組合活動として正当の範囲内に属するから、これのみを解雇事由とすることは、不当労働行為として解雇の違法を招来することとなるが、前記違法な争議行為を敢行したことを解雇理由とすることは、固より正当組合活動を阻害する不当労働行為を形成するものではなく、しかも被告は解雇事由としては、右後者の違法争議の実施責任者たる点を他の点より遙かに重視していることは、事柄自体の比重に徴しても容易に推測し得べく、従つて、他の解雇事由につき比較的軽微な不当労働行為該当事実があつたとしても、これを以て別の重要な解雇原因の正当性を損うものではなく、解雇全体の違法性を招来するものではない。

そして本件解雇の最重要理由として右の争議行為を採り上げることが、不当労働行為でなく、解雇理由として正当視得るとされる(両者は互に相表裏する)以上は、更に他の解雇理由を附加累積するまでもなく、解雇は適法であるから、被告主張のその余の解雇事由の存否については判断を省略する。

又、原告は、本件解雇は、その事由を欠くから無効であると主張するけれども、右解雇が前段説示の事由により為されたことは明白であるから、右主張は理由がない。

してみると、本件解雇は有効である以上、原告と被告との間の従業員関係はすでに消滅したものと言うべく、解雇無効確認は勿論、これと併せて賃金の支払を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決する。

(裁判官 宮川種一郎 奥村正策 鍬守正一)

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